あの時ああしとけば良かった、なんて無意味
僕が学生だった頃のこと。
ある暑い夏の日の朝、うちの飼い猫(雄)のシロが餌をねだるので、いつもの乾燥餌をやったのだが、なにが気に入らないのか食べようとしない。
イラッとした僕は「食べろ」とシロの頭を強くつかんで餌入れに顔を”ガサッ”と押し付けた。
当然食べないので「それ以外ないからな」といって尻を”トンっ”と軽く蹴っ飛ばした。
突然のことでビックリしたのか、シロは逃げもせずうずくまって、小さく「ニャー」と一声だけ鳴いた。
そしていなくなった
シロは僕が寝っころがると、胸の上に乗っかり、生暖かい息でごろごろ喉をならし、餌をもらえるまで前足でモミモミする。
いつもは可愛がっていたし、シロも僕に懐いていた。
夏の暑さもあったと思う、つまらないことに、ちょっと虫の居所が悪いというだけで 、飼いネコで憂さ晴らしをしてしまったわけだ。
その日から、怒られた怖さからかシロは僕に近寄らなくなった。
そして、しばらくして家からいなくなり、いくら待ってもシロが家に帰ってくることは無かった。
ネコエイズだったシロ
それまで飼った雄猫はさかりがつくと、ほとんど家の前の大きな道路を渡って雌猫を探す旅に出ていって、そのまま帰ってこないことが多かった。
シロはその道路で車に撥ねられて足を骨折したことがある。
2万円ほどの手術で歩けるようにはなったが、手術した病院から「ネコエイズにかかっているのでいつ死ぬかわからない」と告げられた。
それでも2年以上は生きていたからそんなこともすっかり忘れていたころだった。
そんな色んな苦労や思い入れのあるシロを自分の機嫌だけで怒ってけり飛ばしたのだ。いつか元に戻るだろうと高を括っていたから。
後悔先に立たず
シロが居なくなってから3年くらいったったとき、母から「実はシロは車に轢かれて死んだのよ」と告げられた。
見つけたときは首がちぎれていて、頭と体を拾って家の隅に埋めたと。
その話を聞いた後、僕は部屋にこもり自分の傲慢さと軽率な行動に後悔しながら泣いた。
今日、目の前にいる大切な人存在は、今日その日にしかいない。
それでは